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Magnet Newsletter by Ximera, Inc. No.011

「小さく生んで大きく育てる」メディアビジネスの勝ち筋

新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、体に堪える猛暑が続きますね。「酷暑日」「超熱帯夜」という新たな名称まで登場した今年の夏ですが、いかがお過ごしでしょうか。今回からこのニュースレターを読んでくださっているあなたにも、いつもご愛読くださっているあなたにも、暑中お見舞を申し上げます。

株式会社キメラが発行するニュースレター「Magnet(マグネット)」は、メディアビジネスに向き合う方々に宛てたおたよりです。お役に立つニュースや論考をお届けするにとどまらず、一社で立ち向かうには大きすぎる苦境のなかで戦う力になれたらとも思っております。今回も、どうぞお付き合いください。

ウェビナー開催後期:『週刊文春 電子版』成長の秘訣

去る7月27日(水)に、ウェビナー「XIMERA’s talk session〜『週刊文春 電子版』に学ぶ、サブスクリプションビジネスの立ち上げから成長までの実践知〜」を開催しました。『週刊文春 電子版』のサブスクリプションビジネスを取り仕切る村井 弦さんに登壇いただき、サブスクリプションビジネスの立ち上げから成長までの道筋をお聞きしました(アーカイブ動画を見る)。

今回は「小さく生んで大きく育てる」メディアビジネスをメインテーマに設定しました。コンテンツの正確性・信頼性が厳しく問われるパブリッシャーの世界において、何かを世に出すときには前もって完璧を目指したくなるのが常ではないかと思います。しかし、スタートアップや新規事業の定石としては、不完全な姿でも素早くサービスを公開したほうがよいとされています。特にデジタルビジネスの世界は変化が早く、ウェブによる情報発信は情報の追加・変更がすぐに反映できる機動性を生かすことができるからです。自社が選ばれる強みを定義したうえで、細かな要素はあえて作り込みすぎず、ユーザーの声をもとに改善を繰り返すアプローチが重要なのです。

2021年3月にサービスを開始し、わずか1年半で同社のデジタルビジネスを牽引する存在へと成長を遂げつつある『週刊文春 電子版』。さぞ大仕掛けがあったのだろうと思いきや、サブスクリプション課金の実装にかけた期間は約半年、サービス開始時に提供した購読プランは月額課金の1本勝負と、当初の姿はシンプルなものでした。

村井さんからのお話でも、サービス開始時は専任の担当者が不在ということもあり、サービス基準は「週刊文春の記事が毎週載って、読める状態になっていればOK」という潔さに驚きました。創刊当初からのトップページの変遷を見ても、度重なる改善を経て現在の姿があることが伺えます。

『週刊文春 電子版』トップ:左から21年3月8月22年1月のプレスリリースより

一方で、コンテンツに関しては一貫した強い信念が感じられました。「購読者の獲得や維持にもっとも貢献しているのはコンテンツだ」という趣旨のお話にもあったように、村井さんが担当者として着任してからの施策は、打ち上げ花火のように短期間で消費されがちなスクープ記事をいかに長く楽しんでもらうかに主眼が置かれていたのが印象的でした。

『週刊文春 電子版』は、コンテンツという強みを当初から打ち出したうえで、サービスの成長とともにウェブサイトのUI/UX・購読プラン・情報の届け方などの改善を続けています。まさに「小さく生んで大きく育てる」勝ち筋を体現している事例として、メディアビジネスに立ち向かうみなさんにも参考にしていただけたらと思います。

成功したメディアも、はじめから完璧ではなかった

『週刊文春 電子版』の軌跡は、決して特異なものではありません。「小さく生んで大きく育てる」ことで成功を収めたパブリッシャーの先行事例をご紹介します。

The New York Times:地道な継続と改善がもたらした成功

世界で最もデジタルサブスクリプションに成功しているメディアといえば『The New York Times』でしょう。今や917万人が有料購読する巨大メディアですが、2011年にデジタル有料化に踏み切ったときの記事によれば、当初は以下のようなサービス内容でした。

  • 有料購読プランは4週間15ドルが最安値

  • 月に20記事までは無料で閲覧できる

  • ニュース記事をWeb版、モバイルアプリ、iPadアプリで閲覧できる

はじめから今のように厳格なペイウォールや安価な購読プランを導入しているわけではないことが分かります。同社はこの10年間で、ポッドキャストやニュースレターといったチャネルの増強、メディアの買収、度重なるペイウォールのチューニングを経て、現在の充実したサービスに至ったのです。

以下のグラフに示した同社の購読収入の推移を見ても、デジタルが紙面を上回ったのは2020年とつい最近のことです。現在の成功は、地道な購読者数の積み上げとサービス改善の結果であることが実感できるはずです。

The New York Times 購読者数比率の推移 2021年IR資料 より

The New York Times 購読収入の推移 2021年IR資料より

The Athletic:コンテンツの力を最大化

新興のデジタルメディアとして大きな成功を収めた事例のひとつが『The Athletic』です。2016年に創業したスポーツ専門のニュースメディアで、今年1月にThe New York Times社が5.5億ドル(約640億円)で買収したことも記憶に新しいでしょう。TechCrunchの記事では、サービス開始半年後の『The Athletic』を以下のように紹介しています。

  • 有料購読プランは月額10ドル(年契約の場合は月額5ドル)

  • トップスポーツライターをフルタイムで雇用

  • 読者の80%が全記事を閲覧する高エンゲージメントなコンテンツを提供

  • ページの読み込みに30秒もかからない軽快なインターフェイス

上記の特徴から、『The Athletic』が初期から質の高いコンテンツづくりに心血を注いでいることが読み取れます。読み込みスピードの速さも、記事を快適に閲覧できることを最優先した結果かもしれませんね。自社の強みをコンテンツに位置付けたことで成功を収めた代表例といえるでしょう。

Quibi:作り込みすぎて半年で散った反面教師

「小さく生んで大きく育てる」と真逆のアプローチを試みた失敗例として取り上げたいのが、2020年にローンチした短尺動画のサブスクリプションサービス「Quibi(クイビ)」です。ローンチ前から約2500億円を調達し、サービス開始時点で50番組の放送を予定するなど、華々しいスタートを迎えたはずだったQuibiは、ローンチからわずか半年でサービス終了に追い込まれてしまいました。料金は、広告付きで月4.99ドル・広告なしで月額7.99ドルと、特別に割高な値段とも思えません。なぜ、うまくいかなかったのでしょう?

サービス終了に至った理由について、複数の経済メディアは以下のような要因を指摘しています(詳しくは過去のニュースレターで特集しています)

  • 有料購読に値するキラーコンテンツがなかった

  • ユーザーの求める「ながら視聴」に応えられないUI設計だった

  • 有料購読者が定着せず、ほとんどが無料期間で去ってしまった

また、初年度の加入者として700万人という高い目標を掲げていたにもかかわらず、実際の加入者は約50万人にとどまったとも報じられています。

時間とお金をかけてサービスを作り込んだためにユーザーの期待を外した後の軌道修正が難しく、想定を大幅に下回る初期ユーザー数では事業を維持できる見通しが立たなかったために、短期間での終了判断に至ったと考えられます。製作費が初期から大きくなるであろう映像サービスであったことを差し引いても、事前に完璧を期すことが、必ずしも成功を保証するわけではない――そう肝に銘じたくなる、貴重な反面教師です。

社員13名の地元紙が始めた「小さなDX」を知っていますか?

「小さく生んで大きく育てる」メディアビジネスに、現在進行形で挑んでいる日本のローカルメディアがあります。北海道名寄市で70年を超える歴史を持つ名寄新聞社は、社員数わずか13名の小さな組織です。しかしながら、2022年4月に道北の魅力を伝えるWebサイト「道北ネット」を新たに開設し、日々の紙面発行と運営を両立しています。ドキュメントツールのNotionを用いたサイトは、ニュースサイトとしては簡素なつくりです。それゆえに記事の入稿やサイト改修を社内で完結でき、掲載するコンテンツが日に日に充実しています。

来たる8月23日(火)にキメラが開催するオンラインシンポジウムでは、名寄新聞社が実践しているDX(デジタルトランスフォーメーション)について、代表取締役の村上 淳哉さんにお話を伺います。ローカルメディア運営に関するエピソードはもちろん、今回ご紹介した「小さく生んで大きく育てる」メディアビジネスを実践するヒントが詰まった講演になりそうです。

オンラインイベント
メディアとPRがつなぐ地域社会の未来
〜ローカルの課題を情報の力で解決する〜

  • 日時:2022年8月23日(火)14:00~17:00

  • 参加費:無料

  • 形式:オンライン(お申し込み後に配信URLをご連絡します)

  • 参加方法:インターネットに接続できるPC・スマートフォン

  • 主催:株式会社キメラ

  • 参加方法:参加登録フォームよりエントリー【期限:8月22日(月)17:00】

イベントの参加申込をする

今回のオンラインシンポジウムは「ローカルにおける情報発信・メディア展開」がテーマです。名寄新聞社のほか、プレスリリース配信でおなじみのPR TIMES社、メディア型の事業承継プラットフォームを運営するライトライト社、そして弊社キメラが登壇いたします。

メディアを活用した新たな事業展開をお考えの方や、地域課題に関心のある方にとって、たくさんの気付きや発見のある場にできればと思っております。参加は無料で、途中の参加や退出も自由です。ぜひお気軽にご参加ください。

多くのゲストに登壇いただく機会ということもあり、準備にもいっそう力が入ります。お盆明けのまだまだ暑い時期ですので、涼しい室内でホットな話題に触れていただけたら幸いです。

それではまた、画面の向こうでお目にかかります。

中山明子

サブスクリプション管理プラットフォームAE 新機能のお知らせ

AE は複数記事をコンテンツパックとして販売できるようになりました

AEロゴ

キメラ社が提供するサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」は、あらたな課金形態として「コンテンツパック型」に対応しました。従来からのサブスクリプション型、単記事型に加わる、あらたな課金形態です。

  • 複数の記事を束ねたコンテンツパックを買い切りで販売できます

  • 特集・連載、特定テーマなど、読者のニーズや編集の観点に沿ったコンテンツパックを設計可能です

  • 「単記事以上・サブスク未満」の読者に、適切な商品と機会を提供できます

AEを詳しく知る

Ximera Media Next Trends #39 / Text: Ikuo Morisugi

2022年上半期のトレンドを振り返る

上半期に扱ってきた社会・経済・メディア関連のトレンド

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第39回となる今回は、上半期に扱ってきた社会・経済・メディア関連のトレンドを振り返ります。

サスティナブル分野への関心は持続、課題も浮き彫りに

カーボンニュートラルやネットゼロなど環境問題をはじめとしたサスティナブル分野について、日本ではマスメディアでも取り上げられ、多くの人が意識するようになりました。一方で、掲げられている目標の達成はかなり難しいことが浮き彫りになっています。

ネットゼロは2015年に締結されたパリ協定で、2050年までに炭素排出量をゼロにすることが目標です。しかし各国が表明している現在のコミットメントベースでいくと、ネットゼロは40%ほどしか達成されないと言われています。

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